テントの思い出

夜のテントのなかで翌朝の準備をする。ハセツネさんが訪ねてくれたテントで。
山において、テントはとくべつな意味をもちます。

山小屋に泊まるワタシは"One of them."

しかし、その山小屋とわずかに離れたテント場にテントを張って、そのなかに潜り込むワタシは、まがりなりとも一国一城の主。

この違いは大きいのです。

最近のテントはゼッタイに火気厳禁と記してあります。
当然でしょう。テントの素材は不燃素材ではありません。

しかし、テントのなかでは火器を扱わないで、テントの外でだけ調理をしていては身がもちません。
テントのなかで調理するのは、メーカーの警告に反していますが、不文律で(そして自己責任で)「当たり前」のことです。

夏山でも、夕方になると急激に温度が下がります。
一日中、暑さをしのいでくれた半袖では寒くなってきます。

そんなときにテントのなかでコッフェルに水を注いでバーナーに火をつけ、力強い燃焼音とともに水がお湯となるのを待つ間、一気に温まっていくテント内の空気のなかできっとあなたはいままでにない安堵感を感じることでしょう。

いっぽう、同じ時間、もし山小屋に泊まっていれば、都会の夕刻の居酒屋のような喧噪のなかで、あなたは自分の居場所をひっそりと守る準備をしていることでしょう。

私のいちばんのテントの思い出は、もう30年くらい前に、ゴールデンウィークの涸沢で、いまは故人となった長谷川恒男さん、そう、あのハセツネカップの主人公が自分のテントにお酒を携えてお越しいただけたことです。

それは晴れやかなキモチでした。
ちいさな自分の城に、雲のうえのひとをお招きするようなキモチでしたから。
一生忘れることがないでしょうね。

テントに泊まること、それはほんのちいさな出来事だけれども、いつまでもこころが満ち足りる思い出になることでしょう。

「はじめての北アルプステントキャンプ・立山」はそんなひとときを体験していただくために企画してみました。
夏の一夜、北アルプスの山懐で一国一城の主になってみてはいかがですか?